世界選手権2011~その1~
2011年11月17日 音楽最後かも知れないだろ?だから、ぜんぶ話しておきたいんだ。
~ティーダ(FFⅩ)~
自分が世界選手権に出られるなんて、10年前には想像もしていなかった。
1年前に千葉で決勝戦のカバレッジを書いていたときにも、やはり予想すらしていなかっただろう。
世界選手権出場、それはトーナメントマジックを志した者にとっての1つの到達点なのだ。
そして今年2011年は、レーティング制度の廃止とそれに伴うPWP制度の導入が決定され、2012年からの世界選手権の大幅な変革が発表されるなど、プロマジックが転換点を迎えようとしている時期である。
事実上「最後の世界選手権」などと揶揄される中で、PTフィラデルフィア出場によるレーティング増加が自分にこの世界選手権の出場権利をもたらしたのは僥倖と言うほかない。
長くマジックを嗜んだプレーヤーとして、また裏方に携わったライターとして。
この世界選手権を現場で見届けることは、後々多くの意味を持つことになるだろう。
・・・だが、そんなことは今はひとまず「ついで」に過ぎない。
出るからには、目標はあくまでもNo.1。
確かに、参加すること自体に意義はある。しかしそれだけで満足できるほど、老成も達観もしているつもりはなかった。
◇
出発2週間前になり、『神様へのブラフ』(俺、イカ彦、らっしゅ)での調整がスタートした。
前回のPTフィラデルフィアでは1ヶ月前から調整を始めた結果フォーマット変更の憂き目にあい、しかもそれでなくともトーナメント直前でメタゲーム変動の材料が多く発生することがままあるため、時間節約のためにも試験的に始動を遅らせてみたのである。
また、特にスタンダードはちょうど2週間前にGP広島が開催されており、それまで動く意味があまりなかったというのもある。
そんな事情もあって、今回の調整の中心となったのは、フィラデルフィアから多くの禁止カードを経て環境が激変した・・・
『モダン』であった。
共有されたスタートラインは、極めて明確。
公式の構築劇場(http://mtg-jp.com/reading/gekijo/002387/)でも書いたように、『生き残ってしまったZooと双子』が立ちはだかる壁であった。
であるならば、Zooと双子の両方に強いデッキを模索することが急務となる。
では仮定しよう。Zooと双子の両方に強いデッキができたとしたら、そのデッキのコンセプトは何だろうか?
カウンターか?
否。Zooに相性が悪いことは明白だ。
とするとインスタントの単体除去か?
否。確かに除去はZooに強いことは言わずもがな、双子も生物主体のコンボであり、構えていればかなりコンボ達成を抑制できるだろう。だが双子コンボはインスタントタイミングで始動することが可能であり、常に除去を構え続けることはマナ効率の面で得策ではない。また時間をかけて手札を整えられるといつかは乗り越えられてしまう。その上、双子が長期戦に強い《罰する火/Punishing Fire(ZEN)》コンボを搭載しているのも向かい風となる。
それなら高クロック+単体除去ならば?
これも否。というのもそのコンセプトはつまるところZooに収斂するからだ。
こうした思考実験の結果、モダン環境のソリューションになりうるコンセプトとして導き出されたのは。
ハンデスであった。
◇
フィラデルフィアの時点では、ハンデスはお世辞にも良い選択肢とは言えなかった。
なぜなら、《雲上の座/Cloudpost(MRD)》を抜けなかったからだ。
だから我々は当時、MO上である程度の戦績を残していた『ななしポックス(http://www.mtgdecks.net/decks/view/21352)』を調整途中で諦めた。Zooや青赤系コンボに有利であるとしても、初日のトップメタはあくまでも12Postデッキで、それへの不利を覆せないことが課題となった。
しかし、今や12Postデッキはもうない。
とすれば、Zooと双子への有利が丸々残る計算となる。
やはりソリューションか。
そう思って完コピで調整を始めたところ、しかし『双子に相性悪し』という予想外の結論となってしまった。
原因は明らかに《罰する火/Punishing Fire(ZEN)》にあった。
フィラデルフィア時点では12Post、高速コンボのいずれにも無力でほとんど採用される余地がなかったこの『最強のサブコンセプト』が、環境の低速化で生存権を獲得したことにより、双子デッキにほぼ100%採用されることとなっていた。
結果、「ハンデスと《小悪疫/Smallpox(M12)》によるリソース消耗を《闇の腹心/Dark Confidant(RAV)》で取り戻す」というコンセプト自体が否定されてしまう。
《タルモゴイフ/Tarmogoyf(FUT)》以外すべての生物が《罰する火/Punishing Fire(ZEN)》の餌食となってしまうため、ハンデス→タルモパターン以外はほとんど双子側の有利にゲームが推移することとなってしまった。
したがって、ハンデスは理論上は良い選択肢でありながら、《小悪疫/Smallpox(M12)》型ではイマイチである=他の新しいハンデスデッキが求められている。
それがこの段階で得られた結論だった。
◇
この調整結果を受け、次に俎上にのぼったのは青黒《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage(ISD)》コントロールにハンデスを搭載したものであった。
『UBr Control』
3《思考囲い/Thoughtseize(LRW)》
2《コジレックの審問/Inquisition of Kozilek(ROE)》
3《稲妻/Lightning Bolt(M11)》
4《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage(ISD)》
4《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil(ISD)》
4《謎めいた命令/Cryptic Command(LRW)》
3《神秘の指導/Mystical Teachings(TSP)》
1《ザルファーの魔道士、テフェリー/Teferi, Mage of Zhalfir(TSP)》
1《ワームとぐろエンジン/Wurmcoil Engine(SOM)》
1《外科的摘出/Surgical Extraction(NPH)》
1《弱者の消耗/Consume the Meek(ROE)》
1《罰する火/Punishing Fire(ZEN)》
1《残響する真実/Echoing Truth(DST)》
1《喉首狙い/Go for the Throat(MBS)》
1《破滅の刃/Doom Blade(M12)》
1《殺戮の契約/Slaughter Pact(FUT)》
1《否定の契約/Pact of Negation(FUT)》
4《忍び寄るタール坑/Creeping Tar Pit(WWK)》
4《闇滑りの岸/Darkslick Shores(SOM)》
4《沸騰する小湖/Scalding Tarn(ZEN)》
4《沈んだ廃墟/Sunken Ruins(SHM)》
2《涙の川/River of Tears(FUT)》
2《湿った墓/Watery Grave(RAV)》
1《蒸気孔/Steam Vents(GPT)》
1《島/Island(ISD)》
1《山/Mountain(ISD)》
4《燃え柳の木立ち/Grove of the Burnwillows(FUT)》
《思考囲い/Thoughtseize(LRW)》はともかく、《コジレックの審問/Inquisition of Kozilek(ROE)》をフラッシュバックすることは環境に対しかなり効果的なアクションに思えた。
またこのデッキの調整を通して、『単体除去撃ってからリリアナで蓋をする』という動きがモダンでも当たり前に強く、加えて双子相手にも《罰する火/Punishing Fire(ZEN)》を引かれてない限り+1能力連打ですぐ詰むという決定力を持っていることがわかった。
そんなわけで一時はこんな感じのデッキで出る気もあったのだが、Magic-Leagueの大会で《爆裂+破綻/Boom/Bust(PLC)》Zooが結果を残した(http://magic-league.com/deck/73916/modern.html)ことにより、マナベースを攻めるアプローチが増えそうだと感じるようになる。
そうすると《血染めの月/Blood Moon(CHR)》に弱いデッキにはそれだけでネガティブな評価を与えることが多くなってしまい、このデッキもその例に漏れず使用候補から脱落していった。
また、この頃にはこの環境のZooの完成形の1つである『瞬唱Zoo』の形が具体的に見えてきていて、『マナベース』だけでなく『ライフ』も、かなり厳しくリソース管理を求められる環境だとわかってきた。
環境の小さな構造と大きな構造が見えてきたことで、この環境で紡がれるべき物語・・・すなわち、『メタゲーム』がその姿をあらわし始めたのである。
◇
出発一週間前になって、脳内で作り上げたメタゲーム表がこちら。
19% Zoo
14% Jund
10% Death Cloud
10% Splinter Twin
08% UB Snapcaster Control
06% Red Affinity
06% Goblinstorm
04% Next Level Blue
04% Swath Combo
03% Esper Snapcaster Control
02% Ooze Dredge
02% Pyromancer Ascention
02% Living End
02% RW Prison
08% Rogues
一応合わせて100%にはしてあるが、大事なのは
・トップメタはZooで20%弱
・勢力としての次点はハンデスタルモデッキ。合わせてやはり20%前後。Zooと双子をスタートラインに設定すれば当然の帰結
・双子はデッキパワーは強力なのだが、12Postのようないわゆる「お客様」がおらず、また過度に意識されているため、10%にとどまるだろう
ということくらいで、あとはあまり意味がない。
とにかくこのメタゲームを設定したことで、選択肢は以下のように分類された。
1:『最強のZoo』
2:『最強の双子』
3:『最強のハンデス+ボードコン』
4:『最強の瞬唱デッキ』
5:『ぶち切れ既存デッキ(親和、リビングエンドなど)』
5は1~4が全部ダメだった場合のヤケクソ的選択肢であることを考えると、実質4択。
ちょうど出発前週の11/13にモダンのPWCがあるということで、あとは実戦を経てこれらの選択肢を吟味するだけとなった。
そんなわけでPWC(http://60486.diarynote.jp/201111141611056527/)で自分が使用したデッキは瞬唱Zoo。我々が考える『最強のZoo』であった。
『Snapcaster Zoo』
4《野生のナカティル/Wild Nacatl(ALA)》
4《密林の猿人/Kird Ape(9ED)》
4《壌土のライオン/Loam Lion(WWK)》
2《渋面の溶岩使い/Grim Lavamancer(M12)》
4《タルモゴイフ/Tarmogoyf(FUT)》
4《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage(ISD)》
4《稲妻/Lightning Bolt(M11)》
4《流刑への道/Path to Exile(CON)》
2《溶岩の撃ち込み/Lava Spike(CHK)》
2《アラーラの力/Might of Alara(CON)》
4《部族の炎/Tribal Flames(TSB)》
2《稲妻のらせん/Lightning Helix(RAV)》
4《乾燥台地/Arid Mesa(ZEN)》
4《沸騰する小湖/Scalding Tarn(ZEN)》
3《霧深い雨林/Misty Rainforest(ZEN)》
1《新緑の地下墓地/Verdant Catacombs(ZEN)》
1《踏み鳴らされる地/Stomping Ground(GPT)》
1《聖なる鋳造所/Sacred Foundry(RAV)》
1《寺院の庭/Temple Garden(RAV)》
1《神聖なる泉/Hallowed Fountain(DIS)》
1《繁殖池/Breeding Pool(DIS)》
1《蒸気孔/Steam Vents(GPT)》
1《血の墓所/Blood Crypt(DIS)》
1《山/Mountain(M11)》
2《遍歴の騎士、エルズペス/Elspeth, Knight-Errant(ALA)》
2《精神壊しの罠/Mindbreak Trap(ZEN)》
2《ガドック・ティーグ/Gaddock Teeg(LRW)》
2《死の印/Deathmark(M11)》
2《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks(SHM)》
2《大祖始の遺産/Relic of Progenitus(ALA)》
3《原基の印章/Seal of Primordium(PLC)》
ウメが世界選手権本戦で使用した形に比べればまだまだ未完成ではあるものの、コンセプトとしてはこの時点で最強のZooのつもりだった。
だが、結果は《血染めの月/Blood Moon(CHR)》を置かれまくって2-3ドロップ。この段階でやはりZooそのものに限界を感じ、『最強のZoo』を諦めることにした。
また同じ大会でイカ彦がジャンドを使用して好感触だったことを聞き、『最強の瞬唱デッキ』が未完成だったこと、『最強の双子』が同型のクソゲーを免れえないことをも踏まえ、『最強のハンデス+ボードコン』としてジャンドを使用することに決めた。
◇
『Jund』
4《タルモゴイフ/Tarmogoyf(FUT)》
4《朽ちゆくヒル/Putrid Leech(ARB)》
4《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks(SHM)》
4《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf(ARB)》
4《稲妻/Lightning Bolt(M10)》
4《コジレックの審問/Inquisition of Kozilek(ROE)》
1《思考囲い/Thoughtseize(LRW)》
2《罰する火/Punishing Fire(ZEN)》
2《終止/Terminate(ARB)》
1《破滅の刃/Doom Blade(M12)》
1《喉首狙い/Go for the Throat(MBS)》
2《大渦の脈動/Maelstrom Pulse(ARB)》
2《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil(ISD)》
2《怒り狂う山峡/Raging Ravine(WWK)》
4《新緑の地下墓地/Verdant Catacombs(ZEN)》
1《霧深い雨林/Misty Rainforest(ZEN)》
1《湿地の干潟/Marsh Flats(ZEN)》
2《森/Forest(ISD)》
2《沼/Swamp(ISD)》
3《黒割れの崖/Blackcleave Cliffs(SOM)》
1《反射池/Reflecting Pool(SHM)》
2《黄昏のぬかるみ/Twilight Mire(EVE)》
4《燃え柳の木立ち/Grove of the Burnwillows(FUT)》
1《血の墓所/Blood Crypt(DIS)》
1《踏み鳴らされる地/Stomping Ground(GPT)》
1《草むした墓/Overgrown Tomb(RAV)》
2《強情なベイロス/Obstinate Baloth(M11)》
2《最後のトロール、スラーン/Thrun, the Last Troll(MBS)》
1《強迫/Duress(M11)》
1《思考囲い/Thoughtseize(LRW)》
2《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb(SOM)》
2《死の印/Deathmark(M11)》
1《罰する火/Punishing Fire(ZEN)》
2《原基の印章/Seal of Primordium(PLC)》
1《古えの遺恨/Ancient Grudge(ISD)》
1《真髄の針/Pithing Needle(M10)》
世界選手権使用デッキである。
当初は《芽吹くトリナクス/Sprouting Thrinax(ALA)》だった3マナ域を、Zooの《流刑への道/Path to Exile(CON)》に対するライフ面での不安から《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks(SHM)》へ。
また4枚ずつだった《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil(ISD)》《罰する火/Punishing Fire(ZEN)》も、シチュエーション的に腐りやすいカードであるため2枚へ。
2マナ域は《闇の腹心/Dark Confidant(RAV)》と《朽ちゆくヒル/Putrid Leech(ARB)》が争っていたが、デッキ全体の《罰する火/Punishing Fire(ZEN)》耐性を底上げするために後者が採用された。
《大渦の脈動/Maelstrom Pulse(ARB)》はこのデッキのような緑黒系全般が苦手とする《遍歴の騎士、エルズペス/Elspeth, Knight-Errant(ALA)》を強く意識したため。
マッチアップ的には、Zooにはかなり強く、双子にも有利がつく。緑黒同型も《罰する火/Punishing Fire(ZEN)》があるし、《血染めの月/Blood Moon(CHR)》もハンデスや事前の基本地形サーチで対応が可能。
調整の甲斐あって、考えうるベストデッキが持ち込めたと思う。
◇
これに対し、スタンダードの調整は難航していた。
世界選手権の1週間ほど前からDEで圧倒的隆盛を誇っていた青単イリュージョン。それが本戦のメタゲームにどのような影響を与えるか、予測が立てづらかったからだ。
もちろん自分で使ってしまうという選択肢もあった。
何回か使用した感じではそれなりのデッキパワーはあるし、クロックパーミッションは嫌いではない。
だが、『1週間前から流行っている』というのは、すなわちメタゲームに既に組み込まれてしまっていると見るのが妥当だろう。
そう考えると、安易にイリュージョンに乗っかるのは躊躇われた。
メタゲームは、白青人間、白緑、イリュージョン、赤単、ラス系コントロール。割合の設定は難しい。
コントロールは(好みの問題で)使いたくない。
仮定しよう。ソリューションがあるとすれば、何か?
それは既に、出発2日前のことであった。
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Today’s tune
初音ミク「おもひでしゃばだば」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16143243
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