このシーズン、俺は一つの誓いを立てていた。

 「グランプリ横浜には出場しない」

 構築戦のグランプリに出場するとなれば、(少なくとも二日目進出以上の成績を目標にするならば)綿密な調整をしなければならない。GPTに出場するだけでなく、仲間を集めて調整会を開いたり、海外のPTQの結果をチェックしたり、MWSで一人回ししたりで、膨大な準備期間が必要となる。

 とりわけ今回のフォーマットはエクステンデッドだ。このフォーマットの特徴として、カードプールが広く一週間ごとにメタゲームが目まぐるしく移り変わるので、最新の情報を常に仕入れなくてはならない(スタンダードでも基本は同じだが、それよりはるかに重要性が高い)というのがある。

 とてもじゃないがそれだけの時間を捻出できない。そう判断してのことだった。

 そして現に俺は、今シーズンのエクステンデッドの大会にはPTQはおろかGPTにも一回たりとも出場していない。人に会うたびに「GP横浜には出ません」と公言し、自分を追い詰めるプレイング。

 一旦出場を見送るたびに、他の出場プレイヤーとのエクステンデッド環境への理解の差が乗数的に広がっていく。そうして5回ほど見送れば、「どうせ出ても勝てるわけないから」とGP横浜本戦自体にも行く気がなくなるだろう、そういう目論見でもあった。

 そうして3月19日金曜日、前日トライアルの日にも俺がパシフィコ横浜に足を運ぶことはなかった。当然だ。俺も『DD』『Thopter-Combo』『Hive Mind』『Elves!』『Scapeshift』といった多彩なコンボデッキがどのようなカードで成立してどのようなデッキリストなのかを知識としては知っている。だが経験としては、それらを実際にプレイし、また相手にしたことがない。ましてやサイドボードプランなど知るべくもない。そんな有様でトライアルを5連勝など夢物語もいいところだ。

 過去に俺が前日トライアルを突破したローウィンブロック構築のGP神戸では、十分な練習と確かな環境理解があった。その時の状況と比較して、今の俺は『もし出場したとしても』満足な成績は残せないだろうことを予測し、時間の節約のためにそれを回避したわけだ。合理的な選択だった。これで土曜日も横浜に行かなければ、俺は所期の目標を達成することになる。

 ここまでくれば容易なことだ。そう思われた。

 だが、はたしてそうはならなかったのだ。

            ◇

 俺の失敗は、情報を遮断しなかったことにある。

 エクステンデッドの大会に出なかったからといって、俺はそれらの大会結果をチェックしていないわけではなかった。それどころかむしろ興味津々に「ふうん・・・そういうのもあるのか」と孤独にレシピを眺めまくっていたのだ。GPのカバレッジはもちろん、海外PTQのトップ8デッキリストさえも。その結果、俺は大会に全く出ていないにも関わらず「今週はエクテンに出るとしたらこのデッキかな」と無意味な妄想をするようになっていた。

 そうして俺の脳内で膨らんだ妄想ははちきれんばかりになり、GP前日の時点では既にきっかけさえあればいつでも決壊してしまうような危うい状況にあった。

 だがもちろん、俺とてそのデッキ選択が『たとえ正解であったとしても』自分が出れば勝てるなどという浅はかな勘違いをしていたわけではない。

 エクステンデッドだけでなく、あらゆるフォーマットに共通する『勝つために必要なもの』が2つある。

 情報と、経験だ。

 経験は自己の依って立つ判断基準としては情報の上位互換であり、経験も情報ではないかと言う人がいるかもしれないが、つまりここでいう『情報』とは外部情報のみを指す、と考えていただきたい。

 この二つはどちらが欠けても勝利が遠くなるもので、今回の俺は経験が圧倒的に足りない。そしてそれを自分でよく理解している。

 ゆえに、「出ても勝てない」という確信がある。それが出場を迷う俺の、決壊を防ぐ最後にして唯一の理性の堤防だった。

            ◇

 そんなGP前日の夜。このとき俺は引越したばかりでPCもインターネットにつながっておらず、買出しや荷物整理など生活に必要な準備に追われていた。

 しかし携帯でtwitterをチェックしているので、トライアルに参加した知り合いや公式tweetなどからトライアルの盛況っぷりは伝わってきた。

 それに対して俺は、カバレッジも読めず(と思っていただけで実は携帯からでも読めたが)家で悶々としているしかない。「俺、何やってるんだろ・・・」そう思いかけたとき、イカ彦からデッキ貸せるから出ようよメール。さらに時の詩人からも自分も出るから出ようよメール。やめろよ!一度決めた誓いを破るとか、自分に負けてるだろ!!

 だが、こんなときでも俺は「今週出るとしたらどのデッキか」を考えてしまっていた。そしてクソみたいなフェアリーソプターのレシピを75枚作ってMWSで一人回ししてるうちに、俺は堤防に亀裂を作るソリューションに気が付いてしまったのだ。

 「勝たなくてもいいから、出よう」

 理性、決壊である。

 3月19日、午後9時のことであった。

            ◇

 俺のスタンスは『勝つためのマジック』から『楽しむためのマジック』に変わった。

 楽しむためのマジックとは、勝ちを目指さないマジックではない。

 勝ちを目指す真剣勝負の最中の緊張感を楽しむということだ。つまりは優先順位の問題である。

 勝利を第一目標にしないのなら、使いたいデッキを使えばいい。

 そうはいっても出る以上はベストを尽くすのが後悔しないコツなので、一応メタゲームとデッキパワーを考えてデッキを選択することにした。

 それが、このデッキである。

 『GB GAPPO』
4《暗黒の深部/Dark Depth(CSP)》
4《吸血鬼の呪詛術士/Vampire Hexmage(ZEN)》
4《闇の腹心/Dark Confidant(RAV)》
4《思考囲い/Thoughtseize(LRW)》
4《強迫/Duress(M10)》
4《引き裂かれた記憶/Shred Memory(TSP)》
2《女王への懇願/Beseech the Queen(SHM)》
3《北方行/Into the North(CSP)》
2《消耗の儀式/Rite of Consumption(SHM)》
3《タルモゴイフ/Tarmogoyf(FUT)》
1《帰化/Naturalize(10E)》
1《不気味な発見/Grim Discobery(ZEN)》
1《殺戮の契約/Slaughter Pact(FUT)》
4《金属モックス/Chrome Mox(MRD)》
4《新緑の地下墓地/Verdant Catacombs(ZEN)》
4《ヨーグモスの地、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth(PLC)》
2《黄昏のぬかるみ/Twilight Mire(EVE)》
5《冠雪の沼/Snow-Covered Swamp(CSP)》
2《冠雪の森/Snow-Coverd Forest(CSP)》
1《草むした墓/Overgrown Tomb(RAV)》
1《幽霊街/Ghost Quarter(DIS)》

4《大貂皮鹿/Great Sable Stag(M10)》
2《大渦の脈動/Maelstrom Pulse(ARB)》
2《暗黒破/Darkblast(RAV)》
2《死の印/Deathmark(M10)》
2《根絶/Extirpate(TSP)》
1《梅沢の十手/Umezawa’s Jitte(BOK)》
1《自然の要求/Nature’s Claim(WWK)》
1《トーモッドの墓所/Tormod’s Crypt(TSP)》

 緑黒のDDである。このデッキについては、昨年のPTオースティンの際に時の詩人の出場デッキとして調整に付き合ったというわずかばかりの経験がある。

 緑黒は青黒に比べて安定性・対応力の面で劣化版と考えられているが、実は緑黒の利点もある。

 DDコンボに特化しているためコンボ成立が早く、またプレイングが青黒に比べて極めて簡単なのだ。

 経験の少ない俺にとって、プレイングミスが発生する余地はなるべく減らしたい。であるがゆえの緑黒DDである。

 だが、出場を決意したのは前日の午後9時。俺はカードをそこまで持っていないため、ゆうやんにメールして急遽デッキの大部分を用意してもらう形となった。また、それでも足りないカードの用意とこのデッキレシピの作成に関してはイカ彦の協力が不可欠であった。この気まぐれなクソ野郎に付き合って夜遅くまでカードを探してくれた二人には感謝してもしきれない。

            ◇

 さて、グランプリ当日の朝。みなとみらい駅で降り、会場へ向かう途中で知り合いと遭遇。俺は前述の通りグランプリに行かないと公言していた上に前日トライアルに行っていないので、知り合いと会う度に「なんでいるの?w」「あれ、行かないって言ってなかったっけ?w」と煽りを食らうが、自業自得なので甘んじて辱めを受ける。

 パシフィコ横浜の展示ホールCに到着して当日受付を済ませた後、ゆうやんとイカ彦の二人から必要なカードを受け取り、急いでデッキを作る。ここまでくると「行かない」という誓いのことはすっかり忘れて、楽しくて仕方がない。やはり祭りは準備が一番楽しいものである。

 デッキリスト回収のためのシートオールが発表され、ヘッドジャッジのみやけんさんが挨拶とともに開口一番。

 「皆さんに守ってもらいたいことは一つだけ。今日はマジックを楽しんで帰ってください。」

 そのためにここに来た。不行(いかず)の誓いから幾度の葛藤と逡巡を経た結果、俺は『楽しむために』グランプリ横浜に出場している。カワサキさんに言わせれば『参加者一人一人の物語』ということになるのだろう、これが俺の物語だ。そして、ここから新たな章立てを迎える。

 発表された参加者は1122人。一体どこにこれだけのMTG人口が眠っていたのかと疑いたくなる数字だが、エクステンデッドという従来マイナーと思われていたフォーマットで(横浜という地の利も手伝ったのだろうが)これほどの集客力を見せつけるというのは、日本のMTG業界にとっては喜ばしいことだろう。

 さて、何度もいうが、俺は自分が勝てないだろうことはわかっている。そう、これはあくまで『楽しむためのマジック』。

 ・・・だとしても。例えそうだとしても、言わせてもらう。勝つ可能性は低いとわかっていても、真剣に勝ちを目指すことが楽しむために必要だからだ。

 グランプリ横浜、初日。スイスドロー9回戦。

 9-0まで、駆け抜ける!!

            ◇

第一回戦 bye
親和や発掘での度重なる敗戦(注:スタンダードの話です)により俺のTotalレーティングは既に1850を割っているのだが、前シーズンのプロツアー京都出場によりプロプレイヤークラブのレベル1でバイがもらえる。ありがたい話だ。


第二回戦 VS上陸ボロス(カブル)  2-1
一戦目 先手で爆誕してトップ《流刑への道/Path to Exile(CON)》されずに勝ち。
In
2暗黒破
2パルス
1十手
1自然の要求
Out
4ボブ
2囲い
二戦目 ダブマリ、割とライフ残して捌くが悪斬出されてピンチ。黒パクトで除去るも第二の日の出で帰ってきてしまい、暗黒破のドレッジで森が1枚落ちてたせいでフェッチできず負け。
三戦目 ぐだって相手のプレイングミスで勝ち。


第三回戦 VS集団意識        2-1
一戦目 ダブマリだがハンデスボブで勝ち。
In
2根絶
1自然の要求
Out
3タルモゴイフ
二戦目 相手先手2T血染め、でも11枚色マナ供給あるからなんとかなるだろうとか思ってたら3T後にウーナ降臨して負け。
In
2パルス
Out
1殺戮の契約
1消耗の儀式
三戦目 また血染め置かれるがボブで森めくれたので色マナ安定してあとはハンデスで詰めて勝ち。


第四回戦 VSDD-Thopter       0-2
一戦目 相手のワンマリのハンドが完璧でハンデス絡めてもお互いボブの状況にしかできず、あとは相手の3枚目の土地がDDでアーボーグ置けずにターン返したらアーボーグ置かれて爆誕されて負け。
In
2パルス
2暗黒破
2根絶
Out
3タルモゴイフ
1帰化
1北方行
1殺戮の契約
二戦目 ぐだってジェイス降臨してしまう。トップした2マナサーチで呪詛術士持ってくればいいのにボブ持ってきたせいで相手が有効牌祭りになって負け。


第五回戦 VS白黒Suppression    1-2
一戦目 お互いハンデスでぐだるもDD引けずにずーっとドローゴーになって相手が先にデーモン引いて負け。
In
1自然の要求
2暗黒破
2パルス
Out
3タルモゴイフ
1殺戮の契約
1北方行
二戦目 ハンデスを潜り抜けて爆誕して勝ち。
In
1北方行
Out
1強迫
三戦目 相手のビートダウンが止まらずに負け。相手は起動型能力なしの馬鹿ビートなんだからタルモ抜いたのがミスだった。


第六回戦 VSBB Zoo         1-2
一戦目 先手2T血染め(笑)
In
2死の印
2パルス
1自然の要求
Out
4ボブ
1強迫
二戦目 ハンデスから3T爆誕。
三戦目 タルモおば賛美でクロック作られて爆裂/破綻二連打で負け。後手は変成遅いし一戦目でおば賛美見てる以上暗黒破入れるべきだった。ヘタクソ。

 目なしだが爆誕し足りなかったので続ける。

第七回戦 VSNaya Zoo       2-1
一戦目 後手ワンマリ、2マナで止まり、あと1マナ出ればサーチから爆誕なのに引けずに負け。
In
2死の印
2パルス
Out
ボブ
二戦目 消耗の儀式で叩き込んで勝ち。
In
1自然の要求
Out
1女王への懇願
三戦目 タルモで止めて爆誕して勝ち。

            ◇

 4-3ドロップ。やはり練習が足りずプレイミス・サイドミスが目立った。

 それにしても、久しぶりだがやはりエクステンデッドは面白い。

 また、国内グランプリは様々な人と面識を持ったり久しぶりに会ったりなどの出会いがある。

 本戦の結果は予想通りのものだったが、来てよかった。

 ともかく、これで俺の物語は終わった。

 ・・・かのように思われた。

 二日目の併催イベントはPTQサンファンやGP仙台のトライアルであり、出る気がなかったので二日目こそ家で大人しくしていようと思っていた。

 だが、ここで初日を7-2で通過したイカ彦。

 「デッキ貸してあげるから、二日目レガシーに出てみない?レガシーめっちゃ面白いよ!」

 俺のグランプリ横浜は、まだ終わらない。

                               ⇒To be continued...


------------------------------


 Today’s tune

 初音ミク「計画都市」
 
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9094966

コメント

dds666
2010年3月24日1:07

>楽しむためのマジックとは、勝ちを目指さないマジックではない。勝ちを目指す真剣勝負の最中の緊張感を楽しむということだ

自分ヘタレプレイヤーなんでこのスタンスすごくわかりますわー

Yuuta01@ゆうたん
2010年3月24日1:54

リンクありがとうございました〜MTGに対して考えられる内容ですね。
自分は以前まではどちらかというと結構勝ちにこだわってたほうなんですけどDNやってから強さを求める事よりひととの繋がりが増えて行くことか楽しみを見出す事ができました。勝つ事より大事なものもありますよね

じあき
2010年3月24日2:12

俺の適当なプレイミスで煽ってごめんなさい!!

D
2010年3月24日9:17

キャーマツガンサーン!

bun
2010年3月24日13:07

>駆け抜ける!!

これを見るだけでテンションがあがります!
お陰で気だるい午後からの仕事も頑張れそうです。
レガシー編も楽しみにしています。

まつがん
2010年3月24日20:13

>dds666
そちらのレポートも読ませていただきました。二日目は残念でしたね。

>yuuta01
こちらこそリンクありがとうございます。勝利もともに喜びを分かち合う友人がいればこそですよね。

>じあき
何の話?じあきにはたくさん煽られすぎてわからないよ!w

>D
病気?知り合い?

>bun
ありがとうございます。そう言っていただけると書き甲斐があるというものです。

だが・・・レガシー編はまだ白紙なんだ・・・ぜ・・・(ガクッ

スライ信者
2010年3月24日22:11

また1人有名プレイヤーの方がレガシーに参戦してくれるのは個人的には嬉しいです。

KAKAO
2010年3月25日11:40

続きにきたい!

まつがん
2010年3月26日3:14

>スライ信者
デッキ持ってないんで二回目はあるかわかりませんけどねーw

>KAKAO
書いたよ!

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