スタンダードは、情報戦である。

 対戦中、対戦相手にデッキの構造を悟らせない。それだけで相手がプレイングミスをする確率が飛躍的に高まるし、サイドボーディングミスも期待できる。だから常に新しいデッキを作ろうとする。絶え間なくゆらめいているメタゲームの網に引っかからない、それでいて十分なデッキパワーを持ったデッキを開発することができれば、勝利は約束されたようなものである。故に我々は、普段は光の当たらない埃にまみれたカードに可能性を見出しては挫折を繰り返し、それでも夢を見続けるのである。そう、ソリューションの夢を。



 しかし現実にはソリューションなんてそう簡単に見つかるわけもなく、ローウィンが出てはや一ヶ月、一通りの可能性は検討されつくしているはずで、絶対的なデッキパワーを求めてもかなわないことは自明である。ローウィンの中でもカードパワーは最強クラスであろう《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker(LRW)》や《謎めいた命令/Cryptic Command(LRW)》を使ったデッキは都道府県選手権でも猛威を奮っていたし、これらのカードを使ってもありきたりなコントロールしか作れないだろう。ならば別のアプローチ、すなわちメタゲームから新たなアーキタイプへのヒントを得ることはできないか。

 日本においては都道府県選手権をあれほど席巻していた《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker(LRW)》も、既にメタゲームの遺産と化したことが明らかとなったGPクラコウ。そして環境には青、青、青の嵐。メタゲームからのアプローチというからには、現在のメタを厳密に定義する必要がある。クラコウの結果が日本に与える影響と脳内妄想によれば次の予選のメタは・・・

Tier1:マネキン 緑黒エルフ ビッグマナ(赤緑/黒緑)
Tier2:フェアリー(青黒/青緑) 青単パーミ 青白コントロール
Tier3:マーフォーク ゴブリン カヴージャスティス

 もはや「キスキンなんかにゃ負けないぞ」から「キスキン?何それおいしいの?」になってしまっている。いや、キスキンのことはどうでもいい。モーニングタイドで新たな戦力が現れなければ彼らに未来はないのだから。

 それはともかく、マネキンである。マネキンとは何か?といった人のために一応レシピを載せておくが、このデッキ・・・見た目が綺麗で一人回しが気持ちいいという中毒性を持ち、ハマる人はとことんハマりそうな構成なのである。この完成度・・・日本の都道府県選手権と海外のGPとのレベルの違いを思い知らされる。

Matej Zatlkaj
GP Krakow 2007 – Top 8

4 Faerie Conclave
3 Mouth of Ronom
4 River of Tears
3 Snow-Covered Island
6 Snow-Covered Swamp
4 Underground River
4 Epochrasite
4 Mulldrifter
4 Phyrexian Ironfoot
4 Riftwing Cloudskate
4 Shadowmage Infiltrator
4 Shriekmaw
3 Venser, Shaper Savant
4 Makeshift Mannequin
3 Mind Stone
2 Profane Command

3 Bottle Gnomes
4 Damnation
2 Deathmark
2 Draining Whelk
3 Thoughtseize


 TCGとはタルモコールガラクの略である・・・と誰かが言った。ならそれに勝つには。《叫び大口/Shriekmaw(LRW)》と《ファイレクシアの鉄足/Phyrexian Ironfoot(CSP)》。簡潔である。コールやガラクのトークンと相手の叫び大口は鉄足で止め、タルモを叫び大口して畏怖で無防備なガラクを殴り倒す。タルモコールガラクに対して理想的な対処ができる。これだけでもGP当時のメタにはかなり強かっただろうことが想像できる。現在の、しかも日本でもそうとは限らないが、このデッキを一人回ししてオレは思った。「このデッキは簡単でつえー。流行ったらやだなー」と。

 流行ったらやだなー。漠然とそう思ったのだが、実際にこのデッキに対しビートダウンが立ち向かう様を想像して欲しい。例えばキスキン。2ターン目《叫び大口/Shriekmaw(LRW)》。3ターン目《ファイレクシアの鉄足/Phyrexian Ironfoot(CSP)》。4ターン目《その場しのぎの人形/Makeshift Mannequin(LRW)》。gg。

 そう、ビートダウンではこの極限のボードコントロールを突破することはできなさそうなのである。しかし、ビートダウンの誓いがある。制約と誓約・・・ビートダウンを離れた俺が結果を残すことができるだろうか?否。キャラ作り大事。そして何より、ここでオレがビートダウンを手放せば神様の思い通りという気がする。「ビートダウンはやめとけ、無理だから」「ビートダウン弱くね?」「ビートじゃ勝てないよ、今の環境」・・・頭の中に語りかける声。ビートダウンを捨てろと誘惑する悪魔の囁き。消え失せろ!オレは諦めない。その弱さに反逆する。無理だからこそ、やるんだ。神様よ、もう無理だと思っただろ?今回は諦めると思っただろ?神が見捨てても俺は見捨てない。神の逆を行くこれが神様へのブラフだよ。

 こうして神に勝ったオレだが次の敵が立ちはだかる。ビートダウンがどのようにしてマネキンに勝つか。最初に戻ってんじゃん。だから勝てないんだってば。また神が立ちはだかる。そうだ、神は不死身だった。オレは、勝てないのか。

 だがこのループを抜け出す解答があった。叫び大口も鉄足も効かないビートダウンが存在したならどうだろう?これならただの出来損ないのバウンスデッキと貸したマネキンには有利がつきそうである。ただ問題は、ビートダウンがその条件を達成できるか、である。

 叫び大口が効かない・・・ということは、黒かアーティファクトである。

 鉄足が効かない・・・ということは、生物が軒並みパワー4であるか、回避能力を持てばよい。

 この条件をベン図的に重ね合わせて得られる答えは・・・そう、まさかの《真鍮の虻/Brass Gnat(TSP)》ビート!!・・・ではなくて・・・

 黒ビート、である。

 『サンプルレシピA』
4《ダウスィーの殺害者/Dauthi Slayer(TSB)》
4《冥界の裏切り者/Nether Traitor(TSP)》
4《ウーナのうろつく者/Oona’s Prowler(LRW)》
4《ストロームガルドの十字軍/Stromgald Crusader(CSP)》
4《呪われたミリー/Mirri the Cursed(PLC)》
4《叫び大口/Shriekmaw(LRW)》
4《思考囲い/Thoughtseize(LRW)》
4《不吉の月/Bad Moon(TSB)》
4《堕落の触手/Tendrils of Corruption(TSP)》
24《沼/Swamp(10E)》

 叫び大口が効かず、飛行とシャドーで鉄足を越えるというコンセプト。《ダウスィーの殺害者/Dauthi Slayer(TSB)》と《ウーナのうろつく者/Oona’s Prowler(LRW)》はこのコンセプトを象徴するキーカードである。

 しかし単色でのビートダウンでは明らかに個々のカードパワーが落ちる。《冥界の裏切り者/Nether Traitor(TSP)》は《不吉の月/Bad Moon(TSB)》を張らなければ本当に《タルモゴイフ/Tarmogoyf(FUT)》と同じマナ域なのか疑いたくなる弱さであるし、そもそも月を張ってもなおクロックがダウスィーと一緒というのはいかがなものか。《滅び/Damnation(PLC)》を撃たれる前提だとしても、復活するタイミングはさらにもう一体を除去されてからである。これではマネキンが流行ったとしてもなお一定量いるであろうタルモコールガラク相手には秒殺されてしまうだろう。

 そこで次に考えたのが、赤黒である。しかし火力以外に赤を加える意義に乏しい。しかし我々は新たな可能性に行き着いた。マッドネスである。

 『サンプルレシピB』
4《ストロームガルドの十字軍/Stromgald Crusader(CSP)》
4《ダウスィーの殺害者/Dauthi Slayer(TSB)》
4《ウーナのうろつく者/Oona’s Prowler(LRW)》
4《深洞のインプ/Deepcavern Imp(FUT)》
4《叫び大口/Shriekmaw(LRW)》
4《裂け目の稲妻/Rift Bolt(TSP)》
4《火葬/Incinerate(10E)》
4《癇しゃく/Fiery Temper(TSB)》
4《分解/Disintegrate(TSB)》
4《トレッサーホーンの掃き溜め/Tresserhorn Sinks(CSP)》
2《婆のあばら家/Auntie’s Hovel(LRW)》
4《硫黄泉/Sulfurous Springs(10E)》
4《偶像の石塚/Graven Cairns(FUT)》
2《冠雪の山/Snow-Covered Mountain(CSP)》
1《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth(PLC)》
7《冠雪の沼/Snow-Covered Swamp(CSP)》

 《ウーナのうろつく者/Oona’s Prowler(LRW)》はマナコストがかからずカードを切ることができるということで、発売当初はマッドネスとのシナジーが期待されたこともある。そして《深洞のインプ/Deepcavern Imp(FUT)》。よくカードテキストを読んでほしい。

Deepcavern Imp / 深洞のインプ (2)(黒)
クリーチャー ― インプ(Imp)・レベル(Rebel)
飛行、速攻
エコー ― カードを1枚捨てる。
2/2

Skyknight Legionnaire / 空騎士の軍団兵 (1)(赤)(白)
クリーチャー ― 人間(Human)・騎士(Knight)
飛行、速攻
2/2


 瓜二つじゃないか!

 というわけでこのボロスの魂を受け継いだ最強のボロスが埼玉予選を熱く駆け抜けるかのように思われた。

 しかし容赦なく飛んでくる「ヒッピーでよくね?」「ていうかカードパワー上がってなくね?」という仲間達の声に負け、またしても開発を断念。

 こうして黒ビートの開発は暗礁に乗り上げてしまった・・・

            (筆の進みが遅いので)?へ続く→

コメント

AKKA
AKKA
2007年11月19日19:42

ワクワク。

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